小説を原作とした映画には、物語の奥行きや人物描写の深さが宿っています。書き手の言葉から生まれた世界が、映像によって別の表情を見せてくれる瞬間。そんな出会い方ができる名作を、今回は3作品ご紹介します。
永遠の0
太平洋戦争を舞台に、特攻隊員として命を落とした祖父の人生を追いかける若者の視点から描かれる物語。「永遠の0」は、戦争の過酷さをただ描くだけでなく、その中で生きた人の想いを丁寧に浮かび上がらせていきます。
映画では、主演の岡田准一が演じる宮部久蔵の静かな覚悟が感動的。臆病者と呼ばれながらも、誰よりも命に真剣だった宮部の姿が、観る人の価値観を揺さぶります。特攻という言葉の重みと、それでもなお家族を想う一人の人間の姿に、多くの人が胸を打たれました。
原作小説では、登場人物たちの語りから少しずつ宮部の像が立ち上がっていく構成が印象的。戦争という巨大な背景の中で、個人の信念がどう生きるのか。その問いに静かに向き合いたくなる一作です。
告白
中学校のホームルームで突然始まった、教師の告白。そこから始まる物語は、読者や観客を一瞬で現実の外へと引き込んでいきます。「告白」は、湊かなえが描いたサスペンス小説を原作とした映画作品。小説では、章ごとに語り手が変わり、それぞれの視点から見た事件の輪郭が少しずつ明らかになります。一つの出来事に対して、これほどまでに温度や解釈が違うのかと驚かされる構成です。
映画では、松たか子演じる主人公・森口の冷静な語り口と、音楽や映像のコントラストが際立っています。語らない感情がむしろ強く響いてくるような、静かながら緊張感に満ちた作品です。倫理や善悪、復讐というテーマにどう向き合うか。観る人の立場や経験によって、受け取るものが変わってくる作品かもしれません。
君の膵臓を食べたい
タイトルに驚きつつも、その意味を知ったときにはこの作品の中に深く入り込んでしまっている。そんな体験をもたらしてくれるのが「君の膵臓を食べたい」です。重い病を抱える少女と、彼女の秘密を偶然知った僕。2人の関係は、淡々とした日常の中に確かに存在するかけがえのなさを教えてくれます。
小説は「僕」の視点から語られ、言葉にしきれない気持ちが行間に滲んでいます。桜良の明るさと、その奥にある不安や孤独。彼女の存在が、主人公の人生に静かに影響を与えていく様子が印象的です。映画では、過去と現在を行き来しながら、2人の時間が丁寧に描かれていきます。
小説を原作とした映画は、ただ映像化されたものではありません。原作をどう解釈し、どう描くか――その表現の違いを楽しむのも、ひとつの醍醐味です。映像と文字、ふたつの入り口から、作品の世界をじっくり味わってみてはいかがでしょうか。